学生時代、九州の友人に結婚式の司会を頼まれたことがあった。
離陸して間もなく、酔っぱらったおじさんが、CAさんに絡んでいる。近くにいた紳士が、酔っぱらっいのおじさんに注意し止めに入った。おじさんは大声で「表に出ろ!!」と怒鳴った。周囲の乗客はどっと大爆笑。ちょっと前の「どうなるんだろう・・・」という悲壮感から爆笑の渦。何事もなく一件落着。
ところが、式場に着くと、あの酔っぱらっいのおじさんがいたのだ。
何者だ?
その正体は新郎の父親だった。
式が始まっても、テーブルに一升瓶をかざし、そのおじさんは酔っぱらったまま。私はその式の司会者だ。この先どうなるのか、飛行機の中のようにはいかない。打ち合わせ通り進めていくとさらに驚きが。飛行機の中で注意していた紳士は、新婦側の主賓で、勤務先の社長さんだった。つい司会を忘れ、「さっきはどうも」と挨拶してしまった。会場の方々は何のことだろうと不思議に思ったことだろう。社長さんは半笑いを浮かべ祝辞を始めた。酔っぱらたおじさんが新郎の父親であったことを知っていたかのように、落ち着いて時折冗談を交えて饒舌に話を終えた。ホット一息。
最後は新郎の父親の挨拶。
酔っぱらいのおじさん、大丈夫かなと思いつつも挨拶が始まると「トンビが鷹を生みました」の一言。会場がシーンとする中、その背景を友人の新郎が話し始めた。友人は養子に行くそうだ。
簡単に言えば「子を思う親の気持ち」だったのだ。
私も親になり、やっとあの時のおじさんの気持ちが分かる歳になった。